増屋記念基礎研究
振興財団について
助成事業について 助成事業提出書類について
「研究成果」一覧   ~2021年度~

2021度助成金交付対象の「研究成果」概要   戻る

1 京都工芸繊維大学 繊維学系 バイオベースマテリアル学専攻 准教授 岡久陽子 様

テーマ:「未利用羊毛からの非溶解型ケラチンナノファイバー製造」

目的:従来の溶解型ナノファイバー (エレクトロスピニング) とは異なる手法でケラチンを解繊し、高性能ケラチンナノファイバー製造を行う。天然の繊維形態・構造を保ったケラチン繊維が本来有する高い機械的性質と生体親和性を兼ね備えた新材料の開発につなげる。
研究成果:ケラチンは羽毛、羊毛、角、人の爪などを構成する繊維状タンパク質である。 これらケラチン物質の活用方法を検討することは天然資源の有効利用という観点からも要な課題といえる。尿素などで溶解した液体をエレクトロスピニング法を用いてナノファイバーに加工する手法が提案されているものの、良好なエレクトロスピニングに必要な粘弾性特性を持たないことが多く、ケラチン単体では不向きとされている。そこで本研究ではセルロースやキチンをナノファイバー化する機械解繊手法をケラチンに用いることで天然の繊維形態•構造を保ったケラチンナノファイバーの創製を試みた。

前処理として羊毛に脱スケール処理を行い、石臼式グラインダーにより回転数1500 rpm で4 回グラインダー処理を行ったところ、直径 500 nm 程度のケラチンナノファイバーが水に分散した状態で得られた。また、得られた分散液からキャスト法により半透明フィルムを作製することに成功した。


2 大阪公立大学大学院(旧:大阪府立大学大学院)
   工学研究科 物質化学生命系専攻 化学工学分野 教授 荻野博康 様


テーマ:「高活性な二酸化炭素固定化酵素の開発」

目的:植物や光合成微生物が有している二酸化炭素固定化酵素を基に、タンパク質工学的手法を駆使し、二酸化炭素の固定能に優れた酵素を開発し、非光合成微生物で発現することにより、光がなくても二酸化炭素固定化能を有する微生物を創製する。

研究成果:現在、化石燃料の使用や森林の減少により大気中の二酸化炭素 (CO2) が増加している。大気中 の CO2の濃度を削減するために、CO2排出を抑えたり、CO2 を利用した物質の生産をしたりすることが必要である。シアノバクテリアなどの光を必要とする独立栄養生物は、リブロース 1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ (RuBisCO) を有しており 、CO2を吸収し、有機物を生産する。RuBisCO 遺伝子を従属栄養生物の細胞内に組み込むことで、CO2から有機物を生産することができるが、RuBisCO は極めて活性が低いため、 RuBisCO の高活性化が必要である。本研究では、複数の RuBisCO の配列を比較することで RuBisCO の活性向上に寄与するアミノ酸残基を推定し、タンパク質工学的手法により高活性 RuBisCO を作製した。


3 立命館大学 グローバル・イノベーション研究機構 助教 光原圭 様

テーマ:「シリコンスラッジを用いた鉄鋼スラグ中のリン回収プロセスの開発」

目的:鉄鉱石から鉄鋼を製鉄する際にリンを多く含んだ鉄鋼スラグが大量に排出される。この鉄鋼スラグを有効利用するため、太陽電池の作製時に排出されるシリコンスラッジを用いて鉄鋼スラグ内のリンを回収する新しいプロセスを開発する。

研究成果:リン鉱石の変わりとなるリン回収源として注目されている鉄鋼スラグからリンを回収する新奇プロセスの開発の前実験として、本実験では新奇プロセスをモデル化したサンプルの反応を明らかにした。サンプルはリン酸カルシウム粉末に Si,Si02粉末を混ぜ、ボールミリング・加熱することで作製し、そのサンプルの Siおよび PK-edge を立命館大学 SR センター BL-13 で測定 した。実験の結果、リン酸カルシウムにSi粉末をまぜミリング・加熱を行ったものは、CAP 中の リンとシリコンが置換することでリンが発生し、CaSiO3 出来ることが分かった。また、リン酸カルシウムに SiO2粉末を混ぜたもの,Si と SiO2粉末両方入れたものは、ミリング・加熱を行うと CaSiO3 以外の物質もできる可能性があることが分かつた。さらに、ミリングを行わずに加熱を行っても反応は起きないことが分かつた。


4 京都大学大学院 工学研究科 物質エネルギー化学 阿部研究室 助教 鈴木肇 様

テーマ:「マイクロ波分光を利用した層状酸ハロゲン化物光触媒の開発」

目的:半導体光触媒を用いた水分解はクリーンな水素製造技術として注目されている。
本研究では、一連の層状酸ハロゲン化物のTRMC測定と光触媒活性評価を行い、各層の役割を明確化すると共に、高効率水分解に最適な酸ハロゲン化物光触媒の設計指針の提案を目指す。

研究成果:本研究では時間分解マイクロ波伝導度 (TRMC) 測定を活用して、近年高効率可視光水分解用光触媒として注目を集めている層状酸ハロゲン化物の材料開発とキャリアダイナミクス測定を行った。既に光触媒能が報告されているハロゲン2層型BiOX (X=Cl, Br)、1層型PbBiO2Xに加えて、新たに1層2層共存型のPbBi3O4X3のTRMC測定を行うと2層型や1層型と比べて優れたTRMCシグナル(キャリアの生成効率・移動度・寿命の情報を含む)を示すことが明らかとなった。この材料は2種類のハロゲン層が交互に積層することにより、酸化物層が非対称性を持つ。DFT 計算を行ったところ、この非対称性の導入によって、本材料の伝導帯下端と価電子帯上端を形成する軌道が空間的に分離され、光照射により生成した電子とホールの再結合を抑制する可能性が示された。この材料を光触媒として用いて水の酸化による酸素生成反応を評価したところ、可視光照射下で高い光触媒活性を示し、適切な水素生成光触媒を組み合わせることで水分解を達成した。


5 大阪公立大学大学院(旧:大阪市立大学大学院)
   理学研究科 化学専攻 教授 森内敏之 様


テーマ:「二酸化炭素の触媒的活性化を鍵とする分子変換システムの開発」

目的:本研究では、二酸化炭素を炭素源として着目し、地球上に多く存在する安価なバナジウムや鉄触媒のルイス酸性と酸素親和性を最大限に活用し、常圧下での二酸化炭素の触媒的な活性化を行い、高付加価値な化学原料に変換する触媒的合成手法の開発を目的とする。

研究成果:二酸化炭素を炭素源として利用する化学原料への触媒的分子変換システムの開発は、持続可能な低炭素および炭素循環型社会の実現のための重要な研究課題である。本研究では、安価で取り扱いが容易なバナジウム化合物のルイス酸性と酸素親和性を活用し、常圧の二酸化炭素を炭素源として用い、医薬品、化粧品、肥料、樹脂などの原料として重要な尿素誘導体の触媒的合成法の開発に成功した。本触媒的分子変換システムでは、キラリティーを失うことなくキラルな尿素誘導体の触媒的合成が可能である。また、基質の反応性の違いを利用することにより、one-pot で非対称尿素誘導体の触媒的合成を達成した。さらに、常圧の二酸化炭素を炭素源とするグラムスケールの触媒的な尿素誘導体合成に成功し、本触媒的分子変換システムの有用性を明らかにした。


6 兵庫県立大学大学院 理学研究科 機能性物質学Ⅱ講座 助教 角屋智史 様

テーマ:「フレキシブル素子を志向した有機熱電結晶の開発と薄膜素子への応用」

目的:ベンゾチオフェン骨格に基づく分子を合成し、これを用いて分子性導体の結晶を開発し、この分子性導体の熱電特性を評価し、優れた有機熱電材料を生み出すための分子設計を確立することを目指した。また、フレキシブルな薄膜素子への応用検討を行うことであった。

研究成果:BEDT-BDT のベンゾヂチオフェン部位の硫黄原子をセレン原子に重カルコゲン置換したBEDT-BDS 分子を新たに合成し、これを用いて新規ラジカルカチオン塩(BEDT-BDS)F6の開発に成功した。結晶構造などの基礎物性を評価した結果、先行研究の(BEDT-BDT)F6と同じ分子配列を形成していた。一方で、分子軌道計算で見積もった(BEDT·BDS)F6の結晶内の分子間相互作用は、異方的に変化した。
これにより電子構造は擬一次元のフェルミ面が導かれた。分子間相互作用の変化は、重カルコゲン置換の効果であると考えられるが、もう一点の可能性は、分子の屈曲度合いが変化したことである。
BEDT-BDT骨格は、N字型のかたちをしている。本研究で、中央のベンゾジチオフェン骨格の硫黄をセレンに置換したことで、C-S(Se)·C結合における角度が変化し、BEDT-BDS はN字型の分子屈曲の程度が大きくなった。これにより、分子配列は同じでも分子間の分子軌道の重なりがわずかに変化し、電子構造の次元性が変化したと考えられる。


7 京都大学大学院 工学研究科 附属工学基盤教育研究センター 講師 高津浩 様

テーマ:「応力を用いた酸素空孔相の制御と革新的機能の開拓」

目的:本研究では、応募者が開拓してきた応力下のトポケミカル反応によって酸化物における酸素空孔層の導入間隔•方向を制御し、新しい次元性、操作性、組成をもった新しい還元型酸化物 を開発する。これによって、機能材料開発の潜在可能性を広げるのが目的である。

研究成果:イオン交換反応の一種である「トポケミカル反応J に、巨大外場である「応力」を組み合わせることで、準安定化合物の薄膜安定化や、無機酸化物における酸素空孔配列の制御を目指して研究を行った。酸素空孔が二次元的に配列した層状構造の SrVO2.2N0.6では化学圧力効果に着目して、Srl-xCaxVO2.2N0.6の(0≤x≤0.2)の合成に成功した。そして、同物質では、二軸的な応力が酸素空孔配列の導入方向に重要な役割を担 っていることを見出した。また、酸化物のプロトン化経由反応という新しい還元反応を見出し、SrCoO2など幾つかの還元型酸化物の合成に成功し、同手法が新しい酸素空孔相を創るのに有用な手法であることを見出した。


8 大阪公立大学大学院(旧:大阪府立大学大学院)
   理学研究科 化学専攻 准教授 竹本真 様


テーマ:「バイオプロピレンの生産を志向したアリルアルコール脱酸素触媒の開発」

目的:プロピレンは重要な基幹化学品であり、バイオマスを原料とする合成法の開発が望まれている。本研究は、バイオマスから得られるグリセリンをプロピレンヘと変換するための高選択的なアリルアルコール脱酸素触媒の開発を目的とした。

研究成果:遷移金属触媒によるC-O結合の水素化分解反応は、カーボンニュートラルの実現に向けたバイオマス変換への応用という観点から注目されている。本研究では、独自に開発したRu-Ir 異種二核ヒドリド錯体を触媒とするアリルアルコールの水素化分解反応を検討し、本触媒が従来の触媒には見られない高い活性と選択性でプロビレンを与えることを見出した。常圧の水素雰囲気下、80 ℃ という温和な反応条件においてプロピレン生成の触媒回転数は1378 に達した。触媒とアリルアルコールの反応で生成するπアリル錯体の反応性を精査した結果、金属間電子移動を伴ってRu(II)ーIr(III)ヒドリド種とRu(III)-Ir(II) πアリル種の変換を繰り返す触媒サイクルを見出した。また、中心金属としてIr のかわりにRhを用いると、水素化分解のかわりにアリルアルコールの電解還元による脱酸素化が可能であり、アリルアルコールと水および再生可能エネルギーから直接プロビレンを合成できることも明らかにした。


9 京都大学大学院 工学研究科 合成・生物化学専攻 助教 加藤研一 様

テーマ:「剛直な柱状分子がつくる空隙を利用した小分子吸着剤の開発」

目的:柱状分子であるピラー[n]アレーンの修飾位置すべてに芳香族置換基を高効率で導入する手法を確立する。得られる分子群がもつ、正確な空間配置でヘテロ芳香環に取り囲まれた分子サイズの空隙に基づく特異な小分子吸着特性を調査する。

研究成果:本研究では、ベンゼン環がパラ位でメチレンを介して連結した大環状分子であるピラー[5,6]アレーンの両縁に剛直なヘテロ芳香環として2-フラニル基、2-ベンゾフラニル基を海入した一連の分子を合成した。単結晶X線構造解析とNMR 測定によって分子構造を解析した結果、ベンゼン環が傾くことで内部空隙が狭まった非対称な構造を含む柔軟な配座平衡の存在が示唆された。アルコキシ型の類似分子に典型的な溶液中でのホストーゲスト錯体形成は見られなかった一方で、アルコキシ型分子では吸普が見られない低級炭化水素に対して吸着特性を示すことが分かった。この特性は分子性固体が持つ分子内部および分子間の小さな空隙に起因すると想定され、今後は選択性の詳細について調査を行う予定である。


10 大阪公立大学大学院(旧:大阪府立大学大学院) 工学研究科 物質化学系専攻 マテリアル工学分野
    教授 Prassides Kosmasプラシデス コスマス 様


テーマ:「ユビキタス元素を主成分としたエネルギー無損失高温超伝導体の創製」

目的:本研究の目的は、電気輸送においてエネルギー損失の無い材料、すなわち超伝導体を炭素を主成分とした物質により創製することである。ユビキタスな炭素系材料に重点を置いた新規機能物質開発により現在直面するエネルギー・資源問題の解決に貢献する。

研究成果:Superconductors have no electrical resistance and carry electricity without losing energy. C60 superconductors have achieved a zero-resistance state at record temperatures and magnetic fields. Here we develop superatomic carbon frameworks with metal ions inside the cages and use dual-direction internal and external electron doping. To-date we have achieved the first milestone of producing and characterizing in the bulk the neutral lithium endohedral C60 a function of temperature and pressure - this is the synthon of our eventual targets.
(日本語表記 未了)


11 立命館大学 理工学部 電子情報工学科 教授 熊木武志 様

テーマ:「野菜生育と魚類養殖を促進・両立させるサステイナブルシステムの開発
~植物工場に自然のゆらぎを導入し環境保全と黒字化経営の両立へ~ 」

目的:食料供給の確立は重要であるが,解決策の一つである植物工場は、コストが大きく 8割が赤字である.我々は,植物工場の光と空間を自然の状態に近づけ光合成等を促す技術を確立しつつ、有機栽培を実現する魚耕技術の融合を行い、食の安定供給技術を実現する。

研究成果:野菜生育と魚類養殖を両立するためのアクアポニクス技術を実現するために,総水量2.5トンの実験設備を構築した.その上で、リーフレタスといずみ鯛を対象に実験を行った。いずみ鯛の排泄物をバクテリアが分解することで肥料等の必要がなく有機栽培を行う事が可能となり、太陽光LED を用いる事で、一般の照明と比較して重彙と葉面積が約 10%大きくなることが分かった.更にアクアポニクスシステムの環境を自動に観測するシステムを構築し,気温 水温,湿度や画像情報を遠隔で把握することが可能となった。また、種子の段階から成長を促進するために,もやしに対して超音波による刺激を与える実験を行い、何らかの影響を与える事が可能であると分かった。


12 大阪大学 産業科学研究所 3次元ナノ構造科学研究分野 准教授 服部梓 様

テーマ:「自発的あいまい動作を内包した相変化ナノデバイスの創製」

目的:本質的不均一性を持つニッケル酸化物の10nmスケールナノ立体構造を用いて、ランダムに信号を遮断する自発的あいまい動作を内包した相変化ナノデバイスを創製する。材料サイドからのApproximateコンピューター開発を目指し、カーボンニュートラルの実現に貢献する。

研究成果:金属絶縁体転移 (MIT) による 1-2桁の抵抗変化を示し、本質的不均一性を持つネオジウムニッケル酸化物(NNO)の10nmスケールナノ立体構造を作製し、ナノスケールでの競合電子相によって支配されているNNO ナノエレクトロニクス相のMIT 特性である転移点の統計的分布を定量的に調査した。解明したNNO 中のNi-O-Ni 角度分布に起因する歪み効果とMIT 特性の定量的関係は、本質的不均一性を持つNNO ナノデバイスでの、ランダムに信号を遮断する自発的あいまい動作を生み出す指針となる。研究期間中に構築したナノ細線チャネルを持つ電界効果デバイスの作製技術を基に、相変化ナノデバイスを創製し、材料サイドからのApproximateコンピューター開発へと展開していく。


13 大阪公立大学大学院(旧:大阪府立大学大学院)
    工学研究科 物質化学生命系専攻 化学工学分野反応工学研究室 助教 松本拓也 様


テーマ:「海洋プラスチックを高効率で分解可能な耐塩性酵素の開発」

目的:近年、酵素を用いた環境に優しいプラスチック分解方法が検討されているが、実用に向けた耐久性改善が求められている。本研究では、表層提示技術およびタンパク質工学的手法を用いることで耐塩性を改善し、海洋プラスチックを高効率に分解可能な耐塩性酵素の開発を目指した。

研究成果:I.sakaiensis に由来するPETase およびMHETase を遺伝子組換え大腸菌を用いて発現・精製し、PET 分解物 (BHET) の分解活性を調査したところ、模擬海水塩の存在下においても活性を維持していることが確認できた。 しかしながら、PET 粉末を基質とした場合、その分解活性は低く、更なる酵素活性の改善が求められる。また、大腸菌BL21(DE3)株を用いたPET分解酵素の表層提示発現に成功した。PETase表層提示大腸菌を用いて、PET およびBHET の分解を試みたところ、BHET は分解することができたものの、PET はほとんど分解することができなかった。今後、開発した表層提示系を利用して更なる酵素活性の改善、あるいは塩以外にも熱や溶媒に対する耐久性を改蕃を目指す。


14 京都大学高等研究院 物質-細胞統合システム拠点 特定講師 田部博康 様

テーマ:「酵素によるCO2を原料とした尿素合成反応の速度論的解析」

目的:尿素分解酵素のウレアーゼを多孔性担体に固定し、その逆反応を利用することで、CO2から常温·常圧で尿素を合成する。また、本反応をより深く考察し、尿素合成効率向上の指針を得るため、速度論的解析を行う。

研究成果:温室効果ガスである二酸化炭素 (CO2) の削減が世界中で強く求められ、CO2 再技術に対するニーズが年々高まっている。CO2由来の化合物で最も市場が大きいものは尿素である。 しかし、尿素を合成するには CO2を加熱、加圧下で反応させる必要があり、さらなるCO2を排出する。そこで本研究は、常温、常圧で駆動する生体由来の触媒である酵素に着目した。無機多孔性材料に酵素を固定化させ、固定化なしでは難しい尿素合成反応を行った。種々の条件で尿素合成反応の反応速度を測定することで至適温度を決定したとともに、速度論解析から活性化エネルギー、ミカエリス定数、最大反応速度などの各熱力学的パラメ ータを算出した。


15 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物性創成科学領域
    准教授 服部賢 様


テーマ:「ゲート電圧印加MOS構造を利用したメタノール合成触媒反応の開拓 」

目的:エネルギーコストの低いCO2減・メタノール合成反応が期待できる電気化学反応を、適用困難である従来の液相反応法に代わり、申請者が独自に開発してきた気相反応法(ゲート電圧印加MOS構造による触媒効果)への展開を試みる。

研究成果:本研究では、金属/酸化膜/半導体 (MOS) 構造を利用して、二酸化炭素からのメタノール合成反応CO2+ 3H2→ CH3OH+ H2Oを試みた。本研究のアイデアは、M OS 構造にゲート電圧を印加した際に、半導体層から酸化膜層を通って金属ナノ薄膜層へ注入されるホットな励起電子(正孔)のエネルギーを利用して、活性化エネルギーをもつ会合脱離反応を進行させるものである。Pd金属ナノ薄膜をもつ MOS構造に二酸化炭素、水素の同位体ガスを導入し、電圧印加したところ、中間生成物であるCO の脱離は確認できたが、中間生成物のH、及び最終生成物のCH3OH、H2Oの脱離は確認できなかった。中間生成物H の生成過程がメタノール合成の化学触媒反応半導体デバイス制御のポイントであることが判明した。


16 京都大学大学院 工学研究科 有機設計学講座 助教 山本武司 様

テーマ:「L-乳酸側鎖を有するキラルらせん高分子を用いた水中不斉触媒反応の開拓」

目的:本研究では、L-乳酸由来のキラルカルボン酸側鎖を有するポリ (キノキサリン-2,3-ジイル)に触媒活性部位を導入した水溶性キラルらせん高分子触媒を開発することで、水を溶媒とする高効率・高選択的な触媒的不斉合成を実現する。

研究成果:水を溶媒とする不斉触媒反応は、安全性や環境調和性に優れた有機合成手法として注目されている。多くの有機分子は水に対して低い溶解性を示すが、触媒活性部位近傍への基質の取り込みを促す疎水性キラル反応場を構築することで、水中不斉反応における反応性や立体選択性の向上が図られている。本研究では、水中でキラル疎水性反応場を提供する高分子配位子として、L-乳酸由来のキラルカルボン酸側鎖を有する水溶性ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル) (PQX)を開発した。このPQX のキラルカルボン酸側鎖を配位子として銅触媒水中不斉 Diels-Alder反応をおこなったところ、高収率・高立体選択的 (99% ee) に生成物が得られた。また、 10量体以下のオリゴキノキサリンを配位子に用いると収率・立体選択性が著しく低下したことから、PQX の形成する疎水性 らせん高分子構造が不斉反応の促進に重要な役割を果たすことが示された。


17 京都大学大学院 工学研究科 材料工学専攻 材料物性学講座 構造物性学分野
    教授 辻伸泰 様


テーマ:「強度と延性を両立したフェライト+マルテンサイト二相鋼の変形機構の解明
~輸送機器の軽量化を目指して~」

目的:本研究の目的は、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相から成るミクロ組織を有する二相鋼が示す、高い強度と大きな延性を併せ持つ優れた力学特性の発現機構を明らかにすることである。

研究成果:建築構造物の巨大化や輸送機器の軽量化を背景に、構造用金属材料にはますます高い強度が求められるようになっている。特に自動車に代表される輸送機器においては、衝突安全性を保ちながら、軽量化して燃費向上と温暖化ガス排出抑制を実現するために、構成材料の大部分を占める鉄鋼材料の超高強度化が要求されている。軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相から成るミクロ組織を有する二相鋼は、高強度と高延性・靭性を両立することが知られている。しかし、二相鋼がなぜ高強度と高延性を両立できるのか、その原因は未だ明らかとなっていない。本研究では様々なマルテンサイトの体積率や分布状態を有する二相鋼試料を作製し、その変形挙動をDIC 法および引張試験中その場放射光X 線回折法によって詳細に調査することによって、フェライト+マルテンサイト二相鋼が優れた加工硬化能、強度と引張延性を示す機構を明らかにすることができた。


18 京都工芸繊維大学 材料化学系 准教授 木梨憲司 様

テーマ:「ナノファイパーエアロゲルを用いた断熱材の開発」

目的:本研究では、ナノファイバーとエアロゲルに着目し、「空隙率」、「フレキシビリティ」及び 「透明性」 を有する住宅建材に向けた材料開発に取り組む。具体的には、ナノファイバーにネットワーク構造を形成させ微細な空気層を9 0 %確保した断熱材を開発する。

研究成果:本研究課題では、遠心紡糸法と架橋プロセスを用いたポリイミド架橋繊維の作製に成功した。また、溶液濃度と溶媒組成を変更することで繊維の表面形態が制御できることも見出した。作製された架橋ポリイミド繊維のゲル含有率は最大65. 5%であり、耐有機溶剤性が確認できた。また、作製された架橋ポリイミド繊維は、繊維特有の柔軟性も兼ね備え内部に多くの空隙を有していることも確認できた。断熱材としての熱伝導率は0. 029 W/mK (※市販スタイロフォーム:0. 036 W/mK) であり、ガラス転移温度と分解温度はそれぞれ270. 5 ℃と515. 1 ℃ (※市販スタイロフォーム:約 120 ℃で軟化)と優れた耐熱性を示していた。 この結果より、遠心紡糸により作製したポリイミド繊維を架橋処理することで、現在の建材市場で一般的に用いられている断熱材の熱伝導率と同等の性質を有し、 さらに耐熱性はそれを上回る性質を有した断熱材の提供が可能であることを見出した。



19 京都大学大学院 工学研究科 附属流域圏総合環境質研究センター 環境質予見分野
    准教授 西村文武 様


テーマ:「新規生物学的窒素除去プロセスANAMMOXにおける
温室効果ガス亜酸化窒素(N2O)発生制御と処理効率化に関する研究」

目的:本研究では、アナモックス反応やN2Oの消長(発生と消滅)に及ぼす因子やその影響実態について実験で示すとともに、温室効果ガスであるN2O抑制と効率的な窒素除去を達成する、操作条件の解明とその際の環境影響評価を行うことを目的とする。

研究成果:代謝系においては亜酸化窒素(N2O)生成過程がないとされるアナモックス反応を活用した水処理システムにおいて、N2O生成が観察されている。その生成特性とアナモックスによる窒素除去特性について実験を基に観察・評価した。温度条件は 35℃の至適条件よりも高い温度、低い温度条件ともに処理効率が低下して、N2O生成が増加することが観察された。一方、基質濃度変化や流入水水質変化によっても、N2O生成が増加すること、その影響は、変化前の状態に戻しても継続することから、N2O発生を予測するためには、生物系が受ける環境条件の変化履歴把握が必要になることを示した。またこれらの結果から、生物層における環境変化を緩和することがN2O発生抑制につながると考え、吸着剤を投入して濃度変化を抑制するハイブリッド型システムの適用を試みたところ、N2O発生が緩和できることを見出し、温室効果ガス抑制のためのリアクターの新たな可能性を明らかにした。


20 京都大学大学院 総合生存学館 総合生存学専攻 教授 齋藤敬 様

テーマ:「CO2高濃縮ダイナミック高分子膜の開発」

目的:脱炭社会を形成するためにCO2農縮膜は必要なコアな技術である。 しかしCO2濃縮高分子膜の場合、透過率を高めると CO2 によって裔分子が可塑化し、ガス選択性が低下するという課題が残されている。本研究では、その課題をダイナミック共有結合で解決する。

研究成果:本研究では、CO2ガスの高分子への拡散係数及び吸着係数を、光付加環化反応により制御することに挑戦した。具体的には、クマリン基部位を複数有する星型体を合成し、それらを動的共有結合で連結させる事で、光付加環化反応で架橋・非架橋を繰り返す動的高分子膜を合成した。次にその高分子のコンポジットを形成するため、金属有機構造体 (MOF)の修飾を試みた。


21 京都大学大学院 エネルギー科学研究科 国際先端エネルギー科学研究教育センター
    特定助教 曲琛 (きょくちん)様


テーマ:「東南アジアにおける固形廃棄物「アブラヤシの空果房(EFB)」の再生資源化」

目的:本研究では、機械的な切断・粉砕により生じるメカノケミカル反応を用いて、スギ、プナ及び廃棄物であるアブラヤシの空果房 (Empty Fruit Bunch 、 EFB) を、石油製品と競合しない高付加価値な機能性化合物へ効率的に変換することである。

研究成果:本研究では、機械的な切断・粉砕により生じるメカノケミカル反応を用いて、スギ、ブナ及び廃棄物であるアブラヤシの空果房(Empty Fruit Bunch、 EFB) 3 種類の木質バイオマスサンプルを分解した。それぞれの木質バイオマスから得られた分解物をGC-MS による定性定量を行った。更に、ボールミル時間及び触媒の影響も検討した。本手法は木質バイオマス及廃棄物から石油製品と競合しない高付加価値な機能性化合物へ効率的に変換することでき、ネガティブエミッションテクノロジーヘつながる物質変換技術として期待される。


                 (順不同)            戻る




その他
・ その他、必要に応じて掲示いたします。